遺言の撤回・変更
1、遺言の撤回・変更は自由に行えること。
実務上、遺言書を作成した後、
- 「遺言者の財産の増減」
- 「相続人や受遺者(遺贈を受ける人)との人間関係の良好又は悪化」
- 「相続人や受遺者の死亡」
- 「新たに遺贈したい者が現れた。」
などにより、遺言を撤回や変更したくなることが少なくありません。
この点、法律上、遺言者は、いつでも自由に遺言の内容の全部又は一部を撤回したり、変更したりすることができます。
2、遺言を撤回・変更する方法
遺言を撤回・変更する方法については、法律により定められています。
具体的には、以下の方法によって遺言の撤回・変更が認められています。
(1)遺言を撤回・変更する内容の遺言書を作成すること。
① 遺言の全部を撤回したい場合
例えば、「平成○○年○○月○○日付けの自筆証書遺言の全部を撤回する。」という内容の遺言書を新たに作成した場合、前の遺言の全部は撤回されたことになります。
② 遺言の一部を撤回したい場合
例えば、「平成○○年○○月○○日付けの自筆証書遺言の第4条(Aに甲土地を遺贈する。)を撤回する。」という内容の遺言書を新たに作成した場合、前の遺言の当該部分(第4条)は撤回されたことになります。
(2)前の遺言書と抵触する内容の遺言書を作成すること。
例えば、「Aに甲土地を遺贈する。」という遺言書を作成した後、「Bに甲土地を遺贈する。」という内容の遺言書を作成した場合、「Bに甲土地を遺贈する。」という内容に遺言が変更されます。
(3)生前に遺言書の内容と抵触する処分などをすること。
例えば、「Aに甲土地を遺贈する。」という遺言書を作成した後、遺言者が生前にBに甲土地を売却した場合、「Aに甲土地を遺贈する。」という遺言は撤回されたことになります。
(4)遺言書を故意に破棄すること。
① 遺言者が故意に遺言書を破棄した場合、遺言は撤回したことになります。
② 公正証書遺言の場合、遺言書の原本が公証役場に保管されていることから、遺言書を破棄しても遺言は撤回したことにならないと判断されています。
(5)遺贈の目的物を故意に破棄すること。
例えば、「Aに甲絵画を遺贈する。」という遺言書を作成した後、遺言者が生前に甲絵画を焼却処分した場合、「Aに甲絵画を遺贈する。」という遺言は撤回されたことになります。
(6)自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合の遺言書上の記載を変更する方法
① 法律上、遺言書上の記載を変更する方法は厳格に定められております。
法律で定められた方法によらずに遺言書上の記載を変更しても、特段の事情のない限り、変更されなかったことになります。
② 自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、遺言書上の記載を変更するためには、下記の方法で行う必要があります。
- 変更する部分に正確な字を書く。
(削除の場合は二重線を引く。加入の場合は、「{」や「<」などを付けて書く。) - 変更する場所に押印をする。
- 遺言書の欄外・末尾などに、変更する場所を指示した上で変更したことを付記して署名する。(例えば、「3行目4字削除3字加入 A山B太郎」など)
3、遺言を撤回・変更する場合に注意すべきこと。
(1)前の遺言を撤回・変更する内容の遺言書の種類は問題にならないこと。
新しく作成する遺言書(前の遺言を変更・撤回する内容の遺言書)は、前の遺言書(撤回・変更の対象となる遺言書)と同じ種類の遺言書でなくてもかまいません。
例えば、公正証書遺言の内容を自筆証書遺言によって撤回・変更することもできます。
(2)日付の新しい遺言書が優先されること。
複数の遺言書が存在する場合、最も新しい日付の遺言書が優先することになります。
なお、新しい遺言書に前の遺言書と抵触する内容が記載されていた場合、前の遺言書は全部が無効になるわけではなく、抵触する部分だけが無効になり、抵触しない部分はそのまま有効になります。
(3)遺言の撤回行為をさらに撤回しても、撤回された遺言は復活しないこと。
例えば、第1の遺言書が第2の遺言書で撤回されて第1の遺言書が無効になった後、第3の遺言書で第2の遺言書を撤回した場合、原則として、第1の遺言書の効力は復活しないと判断されています。
この場合、第1の遺言書の効力を復活させたいのであれば、第3の遺言書に「第1の遺言書の内容」を新たに記載するか、あるいは、第1の遺言書を適切に管理した上で第3の遺言書に「第1の遺言の効力の復活を希望すること。」を明確に記載する必要があります。
(4)新しく遺言書を作成することを心掛けること。
遺言の内容を変更したり、撤回をすると、「遺言書が複数になること。」などによって、相続人間で混乱やトラブルが生じ易くなります。
例えば、第1の遺言書で「Aに甲土地を相続させる。」という遺言をした後、第2の遺言書で「Bに甲土地を相続させる。」という遺言をした場合、Aは、第2の遺言書の無効を主張したり、第2の遺言書を廃棄したり、隠したりすることなどが考えられます。
また、実務上、遺言書の中には法律上の方法によらずに遺言書上の記載を訂正しているものが多く、遺言者の死亡後にトラブルとなるケースが少なくありません。
以上のとおり、遺言の内容を変更したり、撤回をする場合には、紛争の種を残さないようにするために、撤回する遺言書を完全に破棄(焼却処分)した上で、新しく遺言書を作成することを心掛けるべきといえます。
とくに、重要な部分を変更したい場合には(「遺贈する相手の名前」や「相続させる財産の金額」などを変更したい場合には)、新たに遺言書を作り直すべきです。
〒901-3124
沖縄県島尻郡久米島町字仲泊1201番地 202