遺言書に関するトラブル
遺言書を作成しても、適切に作成して、適切に管理をしておかないと、遺言者が亡くなった後、日常的にトラブルが生じています。
「見よう見まね」でとりあえず遺言書を作成して、「遺言書を作成しておいたから、もう大丈夫だろう。」と思って油断した結果、下記のとおり、日常的にトラブルが生じているのです。
そこで、具体例を挙げながら、「遺言書に関するトラブル」を具体的に説明します。
1、遺言が無効になるトラブル
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、遺言者は、専門家などが確認することもなく、単独で遺言書を作成することができます。
このことから、遺言書の内容の表現が曖昧であったり、法定の方式に違背して作成されたりして、遺言が無効と判断されるケースが少なくありません。
この点、実務上、遺言が無効と判断されたケースの多くが、専門家などが確認することもなく、遺言者が単独で遺言書を作成した場合といえます。
現実に「遺言が無効である。」と裁判所が判断したケースを、下記のとおり、挙げておきます。
①「Aに財産の全てを任せる。」などと遺言書に記載していた事案において、裁判所は「Aに対する遺贈の効力は生じない。」と判断しています。
②「昭和四拾壱年七月吉日」というように日付を遺言書に記載していた自筆証書遺言の事案において、裁判所は「吉日では、特定の日を表示するものではないから、遺言は無効になる。」と判断しています。
③ 夫婦が連名で同一の書面で遺言書を作成した事案において、裁判所は「一方の遺言が他方の遺言によって左右される可能性があり、遺言の全部が無効になる。」と判断しています。
2、遺言書の内容が一義的に明らかでないことによるトラブル
形式上は大きな不備がなく一応は有効な遺言書を作成できたしても、遺言書の内容が一義的に明らかに整理されていないと、遺言書の内容の解釈などに関して相続人間でトラブルが生じることがあります。
(なお、仮に、一応は有効な遺言書を作成できたことから、裁判所が「無効にはならない。」と最終的に判断したとしても、「法律上無効にならないこと。」と「相続人間でトラブルにならないこと。」は「次元が異なる問題」です。)
この点、実務上、遺言書の内容が一義的に明らかに整理されていないことからトラブルになったケースの多くが、専門家などが確認することもなく、遺言者が単独で遺言書を作成した場合といえます。
遺言書の内容が一義的に明らかに整理されていないことから「裁判沙汰」になったケースを、下記のとおり、挙げておきます。
① 遺言書に日付を記載せずに封印した封筒に日付を記載したケース
② 遺言書上の遺贈の目的物である土地の範囲の記載が不明確であったケース
③ 遺言書に「公共に寄与する。」とだけ記載されており、寄与される者が記載されていないケース
いずれも、遺言自体は無効であると判断されませんでしたが、裁判所が、長期間に渡って審理をした上で、かろうじて「遺言は無効にはならない。」と判断しています。
(なお、「③」については最高裁判所まで争われています。)
3、遺言書の内容が遺留分を侵害していることによるトラブル
形式上は不備もなく、一義的に明らかに整理された有効な遺言書を作成したとしても、遺言書の内容が相続人の「遺留分(遺言などによっても奪うことができない最低限度の相続できる分)」を侵害している場合、その相続人は他の相続人などに対して「侵害された遺留分の金額」の補償などを請求できることになり、遺言者の意思に反する形で財産が承継されることになります。(この請求を「遺留分減殺請求」といいます。)
これにより、下記のとおり、様々なトラブルが生じる可能性が生じます。
① 自立できない妻や子供などのためにした「負担付遺贈(「Aに財産を遺贈する。ただし、Aは財産の遺贈を受けることの負担として、Bが死亡するまで同居して扶養すること。」などの遺贈)」に対して遺留分減殺請求がなされた場合、遺言者の死亡後に自立できない妻や子供などの生活が破綻してしまうリスクが生じること。
② 遺留分減殺請求を受けた者が既に目的物を処分したり、既に目的物(金銭等)を消費していた場合、遺留分減殺請求を受けた者の生活が著しく混乱してしまうこと。
③ そもそも遺留分減殺請求をした者と相手方の間で話し合いがつかないと、「裁判沙汰(骨肉の争い)」にもなること。
※ 「遺留分」及び「遺留分減殺請求」の詳細については「遺留分」のページを参照してください。
4、遺言書を適切に管理していないことによるトラブル
遺言書を適切に管理していないと、下記のとおり、様々なトラブルが生じる可能性が生じます。
① 遺言書を作成しても、遺言書を紛失や消失をしてしまった場合、遺言の内容が実現されないことになります。
② 遺言書を適切に保管していない場合、遺言書の内容によって相続する財産が減少される相続人が、遺言書を偽造したり、隠したり、廃棄したりすることがあります。
③ 遺言者が亡くなった後に遺言書が迅速に発見される体制をとっていない場合、遺言の内容を確実かつ迅速に実現させることができません
例えば、遺言者が亡くなってから何年も経過した後に遺言書が発見されたとします。
この場合、遺言者が亡くなった後、遺言書が存在しないことを前提として、相続人間で遺産分割協議が行われることになります。
そして、一旦は、その遺産分割協議の結果どおりに財産が相続されます。
その後、遺言書が発見されると、特段の事情がない限り、既になされた遺産分割協議が無効になります。
しかし、遺産分割協議の結果によって財産を相続した者が既に目的物を処分していたり、既に消費していた場合には、遺言の内容どおりに財産を承継させることには大きな障害が伴います。
その結果、「一旦相続した財産を返還できない相続人が遺言の効力を争ってくること。」など、相続人間でトラブルが生じる可能性が生じます。
④ 遺言書を複数作成していた場合、相続人間でトラブルが生じる可能性があります。
例えば、父親が、「長男にA土地を相続させる。」という内容の遺言書を作成して、長男にその遺言書(1番目の遺言書)を保管させていたとします。
その後、1番目の遺言を撤回・変更しなければならない事情が生じたことから、父親が「次男にA土地を相続させる。」という内容の2番目の遺言書を作成して、次男に2番目の遺言書を保管させたとします。
この点、法律上、複数の遺言書が存在する場合、最も新しい日付の遺言書の内容が優先することになります。
つまり、新しい遺言書に前の遺言書と抵触する内容が記載されている場合には、前の遺言書の抵触する部分は無効になり、新しい遺言書の該当部分が有効になります。
従って、「長男にA土地を相続させる。」という1番目の遺言は無効になり、「次男にA土地を相続させる。」という2番目の遺言が有効になります。
このような場合、遺言者が亡くなった後、長男が、自分が保管している1番目の遺言書を持ち出した上で、「2番目の遺言は無効である。」と主張して争ってくる可能性があります。
具体的には、長男が「父は次男に騙されて2番目の遺言書を作成している。」又は「2番目の遺言書の作成時、父は認知症であり、相当程度に進行していた。」などと主張して争ってくる可能性があります。
(なお、このような場合にトラブルを避けるためには、遺言者は、長男に1番目の遺言書を返還させて、1番目の遺言書を焼却処分してから、2番目の遺言書を作成すべきであったといえます。
あるいは、遺言書を作成した時、後で遺言の内容を変更・撤回する可能性を考慮して、長男に1番目の遺言書を保管させずに、専門家などの信頼できる第3者に遺言書を保管してもらうべきだったといえます。)
5、遺言執行者を指定していないことによるトラブル
① 遺言書を作成しても、当然のことながら、遺言者が亡くなった後は遺言者は存在しませんから、「遺言者に代わって遺言の内容を実現する人」が必要になります。
この点、特段の事情のない限り、相続人が遺言の内容を実現するために必要な行為をすることができますが、相続人が遺言の内容に不満な場合、積極的に協力しなかったり、遺言の内容の実現を妨害してくることもあります。
例えば、預貯金を遺贈した場合、遺言者の死亡後に預貯金の払い戻しなどをするにあたって、銀行などの金融機関から「相続人全員が印鑑証明書を提出した上で必要書類に実印で押印すること。」が要求されることがありますが、一部の相続人から拒否されるケースがあります。
また、土地や建物を遺贈した場合、遺言書の死亡後に土地や建物の名義変更をするにあたって、法務局から「相続人全員が印鑑証明書を提出した上で必要書類に実印で押印すること。」が要求されますが、一部の相続人から拒否されるケースが日常的に起きています。
② 相続人が遺言の内容に不満な場合、遺贈の目的物である土地や建物の名義を勝手に相続人の名前に変更した上で第3者に売却してしまうことがあります。
(なお、現在の体制(2020年6月までの体制)では、法務局は、遺言書の存在は関知しえないことなので、遺言書が存在するにもかかわらず、「遺言書が無いこと。」を前提にして行われた相続人の名義する土地や建物の登記の申請は、書類が揃っている限り受理されます。)
この場合、遺贈を受けた人は、特段の事情のない限り、名義変更を済ませた土地や建物の買主に対して「自分が土地や建物の所有者であること。」を主張できません。
③ そこで、これらのトラブルを回避するために、遺言書によって、予め「遺言執行者(遺言の内容を実現するために必要な行為をする人)」を指定することができます。
遺言執行者は、法律上、相続財産を管理しながら遺言の内容を実現するために必要な行為をする権利及び義務を有します。
(なお、遺言執行者は、相続人の同意を得ることなく、遺言の内容を実現するために必要な行為をすることができます。
例えば、土地や建物の遺贈の場合や預貯金の遺贈の場合などには、「相続人の押印」や「相続人の印鑑証明書」は不要となり、「遺言執行者の押印」と「遺言執行者の印鑑証明書」だけが必要になります。)
④ また、遺言者執行者がいる場合には、相続人は、相続財産を処分したり、遺言の内容の実現を妨げる行為が禁止されます。
(仮に、遺言者執行者がいるにもかかわらず、相続人が、遺言書を無視して、遺贈の目的物である土地や建物の名義を相続人の名前に変更した上で第3者に売却した場合、その売却処分は無効になります。)
⑤ 以上のとおり、遺言書によって、予め遺言執行者を指定しておくと、遺言者が亡くなった後、遺言の内容を確実に実現することができますが、他方で、遺言書を作成しても、予め遺言執行者を指定しておかないと、遺言者が亡くなった後、様々なトラブルが生じる可能性があります。
※「遺言執行者」の詳細については、「遺言の内容を実現する人」のページを御覧下さい。
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