自筆証書遺言
1、自筆証書遺言とは?
① 自筆証書遺言とは、遺言書の全文を遺言者の自書で作成する方式によって行う遺言です。
② いつでも、どこでも、遺言者が単独で文書を作成して遺言できる点に最大の特徴があります。
(注)2018年7月6日の民法改正により、「財産目録(不動産の表示など財産に関する詳細な情報を記載した書面)」については「自書」でなくてもよいことになりました。
ただし、この制度は、2019年1月13日から施行されることになっています。
2、自筆証書遺言が認められるための条件
自筆証書遺言が認められるための主な条件は、以下のとおりです。
(1)遺言書の「全文」を遺言者が「自書」すること。
「ワープロ」・「タイプ打ち」・「点字器」などによるものは認められません。
(注)2018年7月6日の民法改正により、2019年1月13日から「財産目録(不動産の表示などの財産に関する詳細な情報を記載した書面)」については「自書」でなくてもよいことになりました。
ただし、この制度は、2019年1月13日から施行されることになっています。
(2)遺言書の「日付」を遺言者が「自書」すること。
「ワープロ」・「タイプ打ち」・「点字器」などによるものは認められません。
「何年何月」だけの記載(「何日」のない記載)とか、「何年何月吉日」という記載は、日付が特定できないことから認められません。
なお、西暦で書いても構いません。
(3)遺言書に「氏名」を遺言者が「自書」すること。
「ワープロ」・「タイプ打ち」・「点字器」などによるものは認められません。
「通称」や「ペンネーム」でも、遺言者を特定できれば認められていますが、無用な混乱を避けるためにも、正確に氏名を書くべきです。
(4)遺言書に遺言者が「押印」すること。
印鑑は、実印でもなくてもよく、認印でも、拇印でもよいとされています。
ただし、遺言者の真意に基づいて遺言していることをより一層に明らかにするためにも、「実印」を使用すべきです。
また、一つの遺言書であることを確認できれば「契印」がなくても遺言書は無効にならないとされていますが、やはり「契印」をすべきといえます。
3、自筆証書遺言のメリット・デメリット
(1)自筆証書遺言のメリット
① いつでも、どこでも遺言書を作成できる。
公正証書遺言や秘密証書遺言の場合には、原則として、遺言者が指定された日時に公証役場に行って遺言書を完成させることになります。
これに対して、自筆証書遺言の場合には、遺言者が、いつでも、どこでも遺言書を作成することができます。
② 費用がかからない。
公正証書遺言や秘密証書遺言の場合には、公証人役場に支払う費用がかかります。
これに対して、自筆証書遺言の場合には、専門家にサポートの依頼した際の費用以外はかからないことになります。
③ 証人が不要である。
公正証書遺言や秘密証書遺言の場合には、原則として、遺言者が2人以上の証人を用意する必要があります。
これに対して、自筆証書遺言の場合には、遺言書を作成するにあたって証人は必要ではありません。
④ 遺言書の存在・内容を秘密にすることができる。
公正証書遺言の場合、遺言者が公証人に対して遺言の内容を口頭で述べる際に証人が立ち合うことから、「遺言書の存在や内容」を秘密にすることができません。
秘密証書遺言の場合、遺言書の内容を秘密にすることができますが、遺言書を完成させる際に証人が立ち合うために「遺言書の存在」を秘密にすることができません。
これに対して、自筆証書遺言の場合には、遺言書を作成するにあたって証人が必要ではないことから、「遺言書の存在及び内容」を秘密にすることができます。
(2)自筆証書遺言のデメリット
① 原則として、遺言者が遺言書の「全て」を「自書」しなければならない。
公正証書遺言の場合は、公証人が遺言書を作成します。
秘密証書遺言の場合には、遺言書の「本文」を「ワープロ」等で作成しても構いません。
これに対して、自筆証書遺言の場合には、遺言者が遺言書の「全て」を「自書」しなければならないことから、長文になる場合には、それなりの「労力」などが必要になります。
(注)2018年7月6日の民法改正により、2019年1月13日から「財産目録(不動産の表示などの財産に関する詳細な情報を記載した書面)」については「自書」でなくてもよいことになりました。
ただし、この制度は、2019年1月13日から施行されることになっています。
② 遺言書の存在・内容が公的に記録されない。
公正証書遺言の場合は、遺言者の原本が公証役場に保管されて、「遺言書の存在や内容」が公的に記録されます。
これに対して、自筆証書遺言の場合には、「遺言書の存在や内容」は公的に記録されません。
これにより、自筆証書遺言の場合には、「紛失や消失のリスク」が生じますし、また、相続人などによる「偽造・隠匿・廃棄のリスク」が生じます。
(注)2018年7月6日の民法改正により、法務局が自筆証書遺言書を保管できる制度が設けられることになりました。
ただし、この制度は、2020年7月に実現することになっております。
③ 遺言書の内容が曖昧であったり、法定の方式に違背して作成されることによって無効になるおそれがある。
公正証書遺言の場合は、公証人が遺言書を作成しますので、遺言書の内容の表現が曖昧であったり、法定の方式に違背して作成されることによって無効になることのおそれはないといえます。
これに対して、自筆証書遺言の場合には、遺言者が単独で遺言書を作成することができることから、遺言書の内容の表現が曖昧であったり、法定の方式に違背して作成されることによって、無効になるおそれがあります。
(注)2018年7月6日の民法改正により、法務局が自筆証書遺言書を保管できる制度が設けられることになりました。
この制度は、法務局が署名や押印などの遺言書の最低限の形式を確認することも含んでいます。
ただし、この制度は、2020年7月に実現することになっております。
④ 遺言者が亡くなった後、家庭裁判所で「検認」を行う必要がある。
「検認」とは、遺言者が死亡した後、遺言書が偽造や隠匿や廃棄されたりするのを防ぐために、家庭裁判所が相続人などの立ち合いの下に遺言書の内容などを確認して記録として残す手続です。
公正証書遺言の場合は、「検認」は不要とされています。
これに対して、自筆証書遺言の場合には、遺言者が亡くなった後、遅滞なく家庭裁判所で「検認」を行う必要があります。
(注)法律上、自筆証書遺言の保管者などが、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に「検認」の請求をしなかったり、あるいは、「検認」を経ずに遺言の内容を実現した場合、「過料の制裁」が科されることがあります。
(注)2018年7月6日の民法改正により、法務局が自筆証書遺言書を保管できる制度が設けられることになりました。
なお、法務局に自筆証書遺言書を預けた場合、家庭裁判所での「検認」が不要になります。
ただし、この制度は、2020年7月に実現することになっております。
※「検認」の詳細については、「相続手続のHP」の「検認」のページを参照してください。
4、自筆証書遺言をする場合に注意すべきこと。
(1)2人以上の者が同一の証書で遺言することはできないこと。
2人以上の者が同一の証書で遺言をしても、無効になります。
例えば、夫婦が同一の書面に「夫婦のどちらか一方が先に死亡した場合、死亡した者の財産は残された者が相続する。」などを記載して夫婦の連名で署名・押印をして遺言書を作成しても、その遺言は無効になります。
(2)遺言書上の記載を変更する方法
法律上、遺言書上の記載を変更する方法は厳格に定められております。
法律で定められた方法によらずに遺言書上の記載を変更しても、特段の事情のない限り、変更されなかったことになります。
遺言書上の記載を変更するためには、下記の方法で行う必要があります。
① 変更する部分に正確な字を書く。
(削除の場合は二重線を引く。加入の場合は、「{」や「<」などを付けて書く。)
② 変更する場所に押印をする。
③ 遺言書の欄外・末尾などに、変更する場所を指示した上で変更したことを付記して署名する。
(例えば、「3行目4字削除3字加入 A山B太郎」など)
(注)実務上、遺言書の中には法律上の方法によらずに遺言書上の記載を訂正しているものが多く、遺言者の死亡後にトラブルとなるケースが少なくありません。
遺言書については、訂正するのではなく、新たに作り直したほうがよいといえます。
とくに、重要な部分を訂正したい場合には
(例えば、「遺贈する相手の名前」や「相続させる財産の金額」などを訂正したい場合)、新たに遺言書を作り直すべきです。
(3)遺言書を封筒に入れて封印すること。
法律上、自筆証書遺言をする場合、遺言書を封筒に入れたり、「封印(遺言書を封じたことの証拠として印を押すこと。)」をすることは要求されておりません。
ただし、遺言書の内容を秘密にしたい場合はもちろん、「遺言書が偽造や変造されるリスク」や「遺言書が汚損するリスク」を回避するために、遺言書を封筒に入れて「封印」をしておいたほうがよいといえます。
なお、「封印」がなされている遺言書は、法律上、相続人などの立ち合いのもと家庭裁判所でなければ開封できないことになっており、これに反して遺言書を開封した場合、「過料の制裁」が科されることがあります。
(4)できる限り専門家にサポートの依頼をすること。
司法書士や弁護士などの専門家に遺言書の作成のサポートを依頼すれば、「自筆証書遺言のリスク」などについては、下記のとおり、回避することができます。
① 遺言書が無効にならない。
自筆証書遺言の場合、遺言者が単独で遺言書を作成することができることから、遺言書の内容の表現が曖昧であったり、法定の方式に違背して作成されることによって、遺言書が無効と判断されるケースが少なくありません。
この点、実務上、遺言書が無効となるケースの多くが、遺言者が単独で遺言書を作成した場合といえます。
(例えば、現実にあったケースですが、「Aに財産の全てを任せる。」などと遺言書に記載されていた事案において、裁判所は「Aに対する遺贈の効力は生じない。」と判断しています。)
この点、司法書士や弁護士などの専門家に遺言書の作成のサポートを依頼すれば、このようなミスによって遺言書が無効になるリスクを回避することができます。
また、仮に、遺言者の死亡後、「遺言者の意思に基づいて遺言書が作成されたのか?」などが争点になって「遺言書の有効性」が相続人間で争われた場合でも、専門家に遺言書の作成のサポートを依頼していたならば、その専門家が証人になって「遺言者の意思に基づいて遺言書が作成された事実」などを証明してくれます。
※ 当事務所では、依頼者の方からのご希望があれば、遺言書を作成した際の状況などを「録音」又は「ビデオ収録」して記録を残すサービスも行っております。
② トラブルにならない遺言書を作成できる。
形式上は大きな不備がなく一応は有効な遺言書を作成できたしても、遺言書の内容が一義的に明らかに整理されていないと、「遺言書の内容の解釈」などに関して相続人間でトラブルが生じることがあります。
(なお、仮に、一応は有効な遺言書を作成できたことから、裁判所が無効にはならないと最終的に判断したとしても、「法律上無効にならないこと。」と「相続人間でトラブルにならないこと。」は「次元が異なる問題」です。)
この点、実務上、遺言書の内容が一義的に明らかに整理されていないことからトラブルになったケースの多くが、遺言者が単独で遺言書を作成した場合といえます。
例えば、現実にあったケースですが、遺言書上の遺贈の目的物である土地の範囲の記載が不明確であったことからトラブルになり、裁判で決着をつけることになりました。
裁判所は、長期間に渡って審理をした上で、当事者から「生前の遺言者の言動」や「現地の状況」などが証明された結果、何とか土地の範囲を確定できたことから、遺言は無効にはならないと判断しました。
しかし、専門家に一度でも遺言書の内容を確認してもらって「土地の範囲」を一義的に明らかに記載しておけば、紛争を回避できたとおもわれますし、遺言者が亡くなった後、迅速に遺言の内容が実現されたとおもわれます。
また、専門家に遺言書の作成のサポートを依頼していたならば、専門家は、遺言者の死亡後、相続人間でトラブルが生じないようにするために、「仮に裁判になった場合、証人になって「遺言書が適切に作成されたこと。」を証言をすること。」などを各相続人に伝えます。
これにより、相続人は「遺言書の効力を争っても無駄であること。」を理解して、相続人間でのトラブルを「予防できる効果」も生じます。
③ 遺言書を適切に管理できる。
公正証書遺言の場合は、遺言者の原本が公証役場が保管されて、「遺言書の存在や内容」が公的に記録されます。
これに対して、自筆証書遺言の場合には「遺言書の存在や内容」は公的に記録されません。
これにより、自筆証書遺言の場合には、「紛失や消失のリスク」が生じますし、また、相続人などによる「偽造・隠匿・廃棄のリスク」が生じます。
この点、司法書士や弁護士などの専門家に遺言書の作成のサポートを依頼すれば、遺言書の管理の依頼もできますので、このようなリスクを回避することができます。
以上のとおり、自筆証書遺言によって遺言をする場合には、できる限り専門家に遺言書の作成のサポートの依頼をすることをお勧めします。
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