遺言の内容を実現する人
1、遺言の内容を実現する人
① 相続人は、原則として、遺言の内容を実現するために必要な行為をすることができます。
② 遺言執行者は、相続人に代わって、遺言の内容を実現するために必要な行為をすることができます。
③ 遺言者執行者が就任している場合、相続人ではなく、遺言者執行者が相続財産を管理して遺言の内容を実現するために必要な行為をすることになります。
④ 制度上、「認知」「相続人の廃除」「相続人の廃除の取り消し」など、遺言の内容によっては、相続人は、遺言の内容を実現するために必要な行為をすることができません。
この場合、遺言者執行者だけが遺言の内容を実現するために必要な行為をすることができます。
2、遺言執行者について
(1)遺言執行者とは?
① 遺言執行者とは、遺言書で指定されたり、家庭裁判所から選任されることによって就任した後、遺言の内容を実現するために必要な行為をする人をいいます。
② 遺言執行者は、複数の者でも、法人でもよいとされています。
③ 未成年者や破産者は遺言執行者にはなれません。
(2)遺言執行者の職務の内容
① 相続人への報告に関する職務
(一)本来的には相続人が遺言者に代わって遺言の内容を実現するために必要な行為をするべきところ、遺言執行者は、相続人に代わって、遺言の内容を実現するために必要な行為をすることになります。
そのために、遺言執行者は、相続人に対して、「相続財産の管理状況」や「遺言の内容の実現の状況」などについて適時に報告する義務があります。
(二)遺言執行者は、相続人に対する報告義務を果たすために、「相続人の調査(婚外子の有無や生き別れになっている遺言者の親や兄弟などの生存確認の調査など)」を行う必要があり、具体的には「遺言者の出生から死亡時までの戸籍謄本等」を収集する必要があります。
(三)遺言執行者は、遅滞なく、「相続財産の目録」を作成して、相続人に交付しなければなりません。
そのためにも、遺言執行者は、「相続財産の調査」を速やかに行うことが必要になります。
具体的には、法務局で遺言者名義の土地や建物の「全部事項証明書」を取得したり、市区村長役場で遺言者に関する「名寄帳」を取得したり、金融機関に「遺言者名義の口座の有無の照会」や「残高の照会」などを速やかに行うことが必要になります。
② 遺言の内容を実現させる職務
(一)遺言執行者は、相続財産を管理しながら、遺言の内容を実現するために必要な行為をすることになります。
(二)遺言執行者は、遺贈された人に対して「遺贈を受けるのか?否か?」の確認をした上で、遺贈を受けた人と共に「土地や建物などの名義変更」や「預貯金の払い戻し」などの遺贈を実現する手続を行います。
(三)遺言によって「相続人の排除」や「相続人の廃除の取り消し」がなされている場合、遺言執行者は、家庭裁判所にそれらの請求をすることになります。
(四)遺言によって「認知」がなされている場合、遺言執行者は、市区町村役場にその届出をすることになります。
(五)上記以外にも、遺言執行者は、遺言の内容(「一般財団法人の設立手続」など)を実現するために必要な行為をすることになります。
(六)遺言執行者は、相続財産に関して紛争が生じている場合には、対立当事者と交渉をしたり、最終的には「訴訟の当事者」として対応することもあります。
(3)相続人は遺言の内容の実現を妨げる行為が禁止されることについて
① 遺言者執行者が就任している場合、相続人ではなく、遺言者執行者が相続財産を管理して遺言の内容を実現するために必要な行為をすることになります。
そのために、遺言者執行者が就任している場合、相続人は、相続財産を処分したり、遺言の内容の実現を妨げる行為をすることが禁止されます。
② 遺言者執行者が就任しているにもかかわらず、相続人が、相続財産を処分したり、遺言の内容の実現を妨げる行為をした場合、その相続人の行為は無効になります。
③ 遺言の対象になっていない相続財産については、相続人が相続財産を管理することになります。
(4)遺言執行者の選任方法
① 遺言による指定
(一)遺言によって、遺言執行者を指定することができます。
また、遺言によって、遺言執行者を指定することを第3者に委託することもできます。
(二)遺言書に「遺言執行者の指定」などの記載がある場合、遺言書の保管者などは、遺言者の死亡後、速やかに「遺言執行者に指定されている人」又は「遺言執行者を指定することを委託されている人」に連絡をする必要があります。
② 家庭裁判所による選任
家庭裁判所は、下記の場合、相続人や利害関係人の請求によって、遺言執行者を選任することができます。
(一)遺言によって遺言執行者が指定されていなかったとき
(二)遺言執行者に指定された人が就任を辞退したとき
(三)遺言執行者に指定された人が欠格者であったとき
(四)遺言執行者に死亡・辞任・解任・資格喪失などの事情が生じたとき
(五)遺言執行者を指定することを委託されている人がその委託を辞退したとき
3、遺言執行者の必要性について
① 法律上、遺言書がある場合、特段の事情のない限り、遺産分割などの内容(「遺産を誰にどのようにわけるか?」など)は遺言書の内容に従うことになります。
しかし、当然のことながら、遺言者が亡くなった後は遺言者は存在しませんから、「遺言者に代わって遺言の内容を実現する人」が必要になります。
この点、特段の事情のない限り、相続人が遺言の内容を実現するために必要な行為をすることができます。
しかし、相続人が遺言の内容に不満な場合、積極的に協力しなかったり、遺言の内容の実現を妨害してくることもあります。
(例えば、預貯金を遺贈した場合、遺言者の死亡後に預貯金の払い戻しをするにあたっては、銀行などの金融機関から「相続人全員が印鑑証明書を提出した上で必要書類に実印で押印すること。」を要求されることがありますが、一部の相続人からその協力を拒否されるケースが起きています。
また、土地や建物を遺贈した場合、遺言書の死亡後に土地や建物の名義変更をするにあたっては、法務局から「相続人全員が印鑑証明書を提出した上で必要書類に実印で押印すること。」が要求されますが、一部の相続人からその協力を拒否されるケースが日常的に起きています。)
② そこで、法律上、遺言書などによって、遺言執行者を選任することができます。
遺言執行者は、法律上、相続財産を管理しながら遺言の内容を実現するために必要な行為をする権利及び義務を有します。
(なお、遺言執行者は、相続人の同意を得ることなく、遺言の内容を実現するために必要な行為をすることができます。
例えば、土地や建物の遺贈の場合や預貯金の遺贈の場合などには、「相続人の押印」や「相続人の印鑑証明書」は不要となり、「遺言執行者の押印」と「遺言執行者の印鑑証明書」だけが必要になります。)
また、遺言者執行者がいる場合には、相続人は、相続財産を処分したり、遺言の内容の実現を妨げる行為が禁止されます。
(仮に、遺言者執行者がいるにもかかわらず、相続人が、相続財産を処分したり、遺言の内容の実現を妨げる行為をした場合、その相続人の行為は無効になります。)
以上のとおり、遺言執行者が選任されている場合、遺言者が亡くなった後、遺言の内容を確実に実現することができます。
③ なお、「認知」「相続人の廃除」「相続人の廃除の取り消し」など遺言の内容によっては、制度上、相続人では遺言の内容を実現するために必要な行為をすることができないことになっており、遺言者執行者だけしかすることができない場合もあります。
④ ところで、遺言の内容を実現するといっても、その内容は複雑で難解な作業も多く、法律上の知識が要求されることが少なくありません。
また、「一部の相続人の相続分を少なくする遺言の場合」や「相続財産の範囲や帰属などで争いがある場合(「遺言者の所有物であるのか?」などについて争いがあった場合)」、遺言執行者は相続人と対立することもあります。
つまり、遺言執行者は、遺言の内容を実現するにあたって、「法律上の根拠を示しながら、相続人を説得すること。」を求められる場合があり、最終的には「訴訟の当事者」として対応することもあります。
「相続財産である現金を相続人に渡す。」などの単純な作業であればともかく、一般の人にとっては、遺言執行者になって遺言の内容を実現することは困難である場合が少なくありません。
この点、司法書士や弁護士などの専門家に遺言執行者の就任の依頼をすれば、遺言者の亡くなった後、より確実かつ迅速に遺言の内容を実現することができます。
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