相続人が認知症などの場合
相続手続きの中には「限定承認」や「遺産分割協議」など相続人全員で行わなければならないものがあります。
これにより、一人でも相続人が「認知症」などで理解力や判断能力を欠いている場合、相続手続きを進めることができないことがあります。
このような場合の典型的な法律上の対処方法としては、「成年後見人の選任」という方法があります。
そこで、「成年後見人」などに関して、具体的に説明します。
1、成年後見人とは?
① 成年後見人とは、「精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害など)によって判断能力を欠く常況にある人」を保護するために、家庭裁判所によって選任された「本人の財産の管理などを行う人」をいいます。
② 本人が精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害など)によって判断能力を欠く常況にある場合、本人・配偶者・四親等内の親族などが「後見開始の審判(本人を保護する法的手続を開始する旨の審判)」の申立てを行うと、家庭裁判所は「後見開始の審判」を下すとともに、「成年後見人」を選任します。
③「後見開始の審判」が確定した後に「被後見人(本人)」が行った法律行為は、原則として、取り消すことができます。
④「成年後見人」は、「被後見人(本人)」に代わって、「被後見人(本人)」の財産を管理することになります。
従って、「成年後見人」が「被後見人(本人)」に代わって「相続放棄」や「限定承認」をしたり、「遺産分割協議」に参加することになります。
ただし、「後見監督人(成年後見人の事務を監督する人)」が家庭裁判所によって選任されている場合、「成年後見人」は、「相続放棄」「限定承認」及び「遺産分割」などをするには、「後見監督人の同意」が必要になります。
⑤「成年後見人」が「被後見人(本人)」と共に相続人である場合、遺産分割協議は「成年後見人」と「被後見人(本人)」との間での利害が対立するものになりますので、「成年後見人」に適切な代理権の行使を必ずしも期待できないことになります。
そこで、この場合、法律上、「被後見人(本人)」に代わって遺産分割協議に参加する「特別代理人」が選任されることを家庭裁判所に請求しなければならないことになっています。
ただし、「後見監督人」が選任されている場合、「特別代理人」は選任されず、「後見監督人」が「被後見人(本人)」に代わって遺産分割協議に参加することになります。
⑥ 以上のとおり、一部の相続人が認知症などで理解力や判断能力を欠いており、「限定承認」や「遺産分割協議」などの相続手続きを進めることができない場合、他の相続人は、「成年後見人」が選任されることを家庭裁判所に請求することができます。
そして、他の相続人は「成年後見人」と一緒になって「限定承認」や「遺産分割協議」などの相続手続きを進めることができます。
2、成年後見人に関して注意すべきこと。
①「成年後見人」の職務は、「被後見人(本人)」のために、財産を管理し、財産の目録などを作り、家庭裁判所に報告をすることです。
また、「成年後見人」は、「被後見人(本人)」の意思を尊重した上で、「被後見人(本人)」が適切な環境で生活ができたり、適切な医療や介護を受けることができるように配慮をしながら職務を遂行しなければまりません。
②「成年後見人」は、家庭裁判所から定期的に「被後見人(本人)の財産状況や生活状況」などの「報告」を求められます。
③「成年後見人」は、正当な理由がない限り、辞任をすることができません。
「成年後見人」の職務は、特段の事情のない限り、「被後見人(本人)」が死亡するまで続くことになります。
つまり、「成年後見人」が選任されたことのきっかけとなった「当初の目的(例えば、遺産分割協議など)」が果たされたら、「成年後見人」の職務が終わりになるというわけではありません。
④「成年後見人」が「被後見人(本人)」の財産を不正に費消した場合などには、解任されるだけでなく、損害賠償請求を受けるなど「民事上の責任」を問われたり、業務上横領などの罪で「刑事責任」を問われたりすることもあります。
⑤「成年後見人」になるために特に資格は必要ありません。
この点、司法書士や弁護士などの専門家が「成年後見人」に就任することが少なくありませんが、一般の人(親族など)が家庭裁判所から選任されることもあります。
(なお、「後見開始の審判」の申立てをする際、申立人は「成年後見人になる候補者」を挙げながら申立てをすることができます。)
しかし、以上に挙げたように「成年後見人」の責任は重たいものであり、一般の人が就任する場合、「相当な覚悟」をもって就任する必要があるといえます。
3、保佐人・補助人が選任されている場合
①「成年後見人の選任」は、「本人が判断能力を欠く常況にある場合」に本人を保護するための制度です。
この点、本人が判断能力を欠く常況にあるわけではないが、「本人の判断能力が不十分である場合」、本人・配偶者・四親等内の親族などの申し立てによって、家庭裁判所が一定の行為に関して本人を保護するために「保佐人」または「補助人」を選任する制度があります。
② 本人が「相続放棄」や「限定承認」をしたり、「遺産分割協議」に参加することについて「保佐人」または「補助人」が選任されている場合(但し、「保佐人」及び「補助人」に代理権が与えられていない場合)、本人は、「保佐人」または「補助人」の同意に基づいて、「相続放棄」や「限定承認」をしたり、「遺産分割協議」に参加することになります。
この場合、「保佐人」または「補助人」の同意がないにもかかわらず、本人が「相続放棄」や「限定承認」をしたり、「遺産分割協議」を成立させても、原則として、「取り消し」の対象になります。
③「保佐人」または「補助人」が本人に代わって「相続放棄」や「限定承認」をしたり、「遺産分割協議」に参加するために家庭裁判所から代理権が与えられている場合、「保佐人」または「補助人」は、それらの行為を代理することができます。
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