相続財産の調査
相続手続きを開始するにあたっては、まず最初に行うことの一つとして、「相続財産の調査」を行うことが必要になります。
この点、被相続人(相続される人)が亡くなる前に自らの財産を整理した上で遺言書を作成している場合などには、相続財産の詳細を把握することは容易ともいえますが、このようなケースは稀なケースといえます。
そこで、相続財産の中での代表的な財産に関する調査方法を具体的に説明します。
1、不動産に関する権利の調査
相続財産の中での代表的な財産の一つとして、「不動産(土地や建物など)に関する権利」があります。
「被相続人(相続される人)が有していた不動産に関する権利」を調査する主な方法は、以下のとおりになります。
(1)被相続人の自宅などにある資料の調査
①「被相続人の自宅」や「被相続人が借りていた貸金庫」などで、「権利証書」「登記識別情報通知書」「固定資産税納税通知書」などの「被相続人が土地や建物の権利者であったことが明らかになる資料の有無」を調査します。
この「資料の有無の調査」によって、「被相続人が有していた不動産に関する権利」がある程度は確認できます。
② ただし、「①」の「資料の有無の調査」だけでは、
(一)被相続人が「権利証書」などの資料を紛失していた可能性があること。
(二)「固定資産税納税通知書」は、毎年1月1日の時点の所有権登記名義人にしか交付されないことから、被相続人が亡くなった年に取得した不動産の所有権などを必ずしも確認できないこと。
(三)被相続人が「非課税不動産」を所有していたこと。
などにより、「被相続人が有していた不動産に関する権利」の全てを必ずしも確認できません。
そこで、事案によっては、「被相続人が有していた不動産に関する権利」の全てを把握するために、「補充調査」を行う必要があります。
(2)名寄帳の交付請求
①「名寄帳(固定資産課税台帳ともいう。)」とは、ある納税義務者が一定の地域内(市区町村単位)に所有している不動産の一覧表をいいます。
② 各市区町村役場は、納税義務者が所有している不動産の全てを把握しており、その上で「名寄帳」を作成しています。
そこで、被相続人が不動産を所有していた可能性がある市区町村の役場に対して、被相続人の「名寄帳」の交付請求をすれば、当該市区町村内で「被相続人が所有していた不動産の有無」などを確認することができます。
③ ただし、一部の市区町村では、「共有している不動産」「公衆用道路」「非課税不動産」などを「名寄帳」に記載していないこともあり、「名寄帳」の交付請求をしただけでは、「被相続人が所有していた不動産」の全てを必ずしも確認できません。
そこで、事案によっては、「「被相続人が所有していた不動産」の全てを把握するために、別の方法で「補充調査」を行う必要があります。
(3)不動産登記事項証明書・公図の取得
①「不動産登記事項証明書」とは、当該不動産について登記されている内容の全部又は一部を公的に証明する書面です。
「不動産登記事項証明書」には、登記されている「当該不動産の所有者の住所・氏名」などが記載されています。
「公図」とは、土地の位置や形状を表した公的な図面です。
「不動産登記事項証明書」及び「公図」のいずれも、法務局で誰でも取得することができます。
②「権利証書」や「固定資産税納税通知書」や「名寄帳」などの手元にある資料から「被相続人が権利者であったこと。」が明らかになった土地や建物の「不動産登記事項証明書」を取得して、「被相続人が権利者であったこと。」を最終的に確認します。
③ 事案によっては、「公図」を取得して、「公図」から把握できる「被相続人が権利者であったことを確認できた土地」の「周辺の土地」の「不動産登記事項証明書」を取得します。
これにより、手元にある資料では「被相続人が権利者であるのか? 否か?」を判断できない「周辺の土地(例えば、共用されている公衆用道路など)」の権利者を確認できます。
(4)その他
① 被相続人が生前にアパートやマンションを賃貸していた場合、「不動産の賃貸人たる地位(借主から賃料を受領できる権利・借主に対して目的物をを貸す義務など)」も相続の対象になります。
「被相続人の不動産賃貸人たる地位の有無」の調査は、「不動産賃貸借契約書の有無」「賃料の入金が記録されている被相続人の通帳の有無」及び「被相続人が作成した確定申告書の内容」などを確認することによって行います。
②「借地権」は課税されず、通常、登記もされていません。
従って、「被相続人の借地権の有無」の調査は、「借地権の契約書の有無」「借地料の支払いが確認できる被相続人の通帳や領収書の有無」などを確認することによって行います。
なお、土地の所有者とその土地上の建物の所有者が異なる場合には、借地権が設定されている可能性が高いといえます。この場合には、土地の所有者に「被相続人との間の借地権の契約の有無」などを確認する必要があります。
2、預貯金の調査
相続財産の中での代表的な財産の一つとして、「預貯金」があります。
「被相続人が有していた預貯金」を調査する主な方法は、以下のとおりになります。
(1)被相続人名義の預貯金の口座の有無の調査
①「被相続人の自宅」や「被相続人が借りていた貸金庫」などで、「通帳」「キャッシュカード」「金融機関からの郵便物」などの「被相続人名義の預貯金の口座が明らかになる資料の有無」を調査します。
② ただし、「①」の「資料の有無の調査」だけでは、被相続人が「通帳」等の資料を紛失していた可能性があることから、「被相続人名義の預貯金の口座」の全てを必ずしも確認できません。
そこで、事案によっては、「被相続人が取引をしていた可能性のある金融機関(被相続人の自宅や職場の近くにある金融機関)」に対して「被相続人名義の預貯金の口座の有無」を照会する必要があります。
(2)残高証明書・取引履歴の取得
①「被相続人名義の預貯金の口座」を確認できたら、その「残高」を確認する必要あります。
この点、金融機関は、「被相続人の死亡の事実」を確認すると、被相続人名義の口座を凍結しますので、「通帳」や「キャッシュカード」は利用できなくなります。
そこで、金融機関に対して「被相続人名義の預貯金の口座」の「残高証明書」を発行してもらう必要があります。
②「相続が開始される前の被相続人の財産に関する契約関係の状況」や「相続が開始される前の被相続人の財産の処分の有無」などを確認するために必要となること、及び、「相続税の申告」の際にも必要になることから、「被相続人の死亡時から3年以上さかのぼった預貯金の口座の取引履歴」が必要になります。
そのため、手元にある「通帳」などで明らかにならない場合、金融機関に対して「被相続人の死亡時から3年以上さかのぼった預貯金の口座の取引履歴」を発行してもらう必要があります。
3、上場株式に関する調査
相続財産の中での代表的な財産の一つとして、「上場株式」があります。
「被相続人が保有していた上場株式」を調査する主な方法は、以下のとおりになります。
(1)被相続人名義の証券口座等の有無の調査
① 被相続人が上場株式を保有していた場合、証券会社などから被相続人宛に「取引報告書」や「保有有価証券残高報告書」などの「被相続人名義の証券口座などが明らかになる資料」が定期的に送付されます。
従って、「被相続人の自宅」などで、「証券会社などからの郵便物の有無」などを調査すれば、「被相続人名義の証券口座」などを確認することができます。
② また、「株式会社証券保管振替機構(証券会社等が加盟している機関)」に「被相続人の登録済加入者情報の開示請求」を行えば、「被相続人名義の証券口座がある証券会社」などを確認することができます。
(2)残高証明書・取引履歴の取得
「被相続人名義の証券口座がある証券会社」などを確認できたら、「被相続人が保有していた上場株式の残高」などを確認する必要あります。
「被相続人名義の証券口座がある証券会社」などに「残高証明書」や「取引履歴」を発行してもらうことによって、「被相続人が保有していた上場株式の残高」などを確認することができます。
4、借金などの負債に関する調査
相続人は、被相続人の預貯金や土地などのプラスの財産のみならず、被相続人のマイナスの財産、つまり、「借金などの負債」も相続することになります。
「被相続人の借金などの負債」を調査する主な方法は、以下のとおりになります。
(1)被相続人の自宅などにある資料の調査
①「被相続人の自宅」などで、「金銭消費貸借契約書」「貸主からの請求書や領収書」「借金の返済の事実などを確認できる被相続人名義の通帳」などの「被相続人の借金などの負債が明らかになる資料の有無」を調査します。
(なお、被相続人が亡くなった後に借金の返済などを行っていない場合、「貸主からの請求書」などが「被相続人の自宅」などに随時送られてくることになります。
この点を踏まえて、事案によっては、この「資料の有無の調査」は「相当な期間」をかけて行うことになります。)
この「資料の有無の調査」によって、「被相続人の借金などの負債」がある程度は確認できます。
② ただし、「①」の「資料の有無の調査」だけでは、被相続人が「金銭消費貸借契約書」等の資料を紛失していた可能性があることから、「被相続人の借金などの負債」の全てを必ずしも確認できません。
そこで、事案によっては、「被相続人の借金などの負債」の全てを把握するために、「補充調査」を行う必要があります。
(2)信用情報機関に対する開示請求
①「信用情報機関」とは、「加盟している会員(銀行・クレジット会社・消費者金融会社など)」から報告された「信用情報(貸付に関する情報・クレジットカードの利用状況などの情報)」を管理して、「加盟している会員(銀行・クレジット会社・消費者金融会社など)」が与信審査をする際に「信用情報」を提供している機関です。
「個人の信用情報」を扱っている「信用情報機関」は、「株式会社シー・アイ・シー」「株式会社日本信用情報機構」「一般社団法人全国銀行協会」の3つの機関があります。
通常、銀行・クレジット会社・消費者金融会社などは、この3つの「信用情報機関」のいずれかに加盟して会員になっています。
② この3つの「信用情報機関」に「被相続人の信用情報(貸付に関する情報・クレジットカードの利用状況などの情報)の開示請求」を行えば、被相続人が「どこの銀行・クレジット会社・消費者金融会社などから、いくら借りているのか?」などを確認することができます。
5、その他の財産の調査
(1)非上場株式の調査
① 被相続人が株主となって中小企業の会社を経営していた場合など、被相続人が非上場株式を保有していた場合、その非上場株式は相続財産に含まれます。
② 法律上、株式会社には「株主の名簿」を作成して管理することが義務づけられていますが、この義務をきちんと果たしている中小企業の会社は、実務上、多くはありません。
この点、当該会社の「法人税の申告書(同族会社等の判定に関する明細書)」に「当該会社の株主や持ち株数」などが相当程度に記載されています。
従って、被相続人が株主となって中小企業の会社を経営していた場合などには、「被相続人が保有する非上場株式の数」などを当該会社の「法人税の申告書(同族会社等の判定に関する明細書)」で確認できることがあります。
(2)投資信託・国債・社債など
一般的には、投資信託・国債・社債などは、銀行等の金融機関や証券会社が窓口になって販売しています
そのため、「被相続人が保有する投資信託・国債・社債」などの調査は、金融機関や証券会社に照会をして行います。
なお、通常、金融機関や証券会社において、「預貯金の調査」や「上場株式の調査」と併せて調査をすることができます。
(3)自動車
①「被相続人が保有する自動車」の調査は、「車検証の所有者の名義」を確認することによって行います。
② 被相続人がローンを組んで自動車を購入していた場合、通常、ローンを担保にするために、契約上、自動車の所有権が被相続人に移転していません。
この場合、「車検証の所有者の名義」がローン会社(または、自動車販売会社)になっています。
被相続人が使用していた自動車の「車検証の所有者の名義」がローン会社などになっている場合、速やかにローン会社などに連絡をとって「ローンが完済されているのか? 」「誰が所有者なのか?」などを確認する必要があります。
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