遺産承継手続(預貯金・株式の名義変更など)
「遺言」や「遺産分割協議」などによって「遺産分割の内容(「遺産を誰にどのように分けるか?」など)」が確定した場合、遺産を承継させる手続を行う必要があります。
遺産を承継させる手続の中で、「登記手続」以外の代表的なものに関して具体的に説明します。
1、預貯金の承継手続
①「被相続人の預貯金を承継する方法」としては、「預貯金の口座の名義変更」または「預貯金の口座の解約・払い戻し」の二つの方法があります。
通常、金融機関は、「定期預金」などを承継する場合、「預貯金の口座の名義変更」または「預貯金の口座の解約・払い戻し」のいずれにも対応してくれます。
他方で、「普通預金」などを承継する場合、「預貯金の口座の解約・払い戻し」だけしか対応してくれません。
また、1つの預貯金の口座の残高を複数の相続人が承継する場合にも、「預貯金の口座の解約・払い戻し」だけしか対応してくれません。
②「被相続人の預貯金の承継」を請求する場合、各金融機関に「相続届出書(預貯金の承継を請求する書面)」や「必要書類(戸籍謄本等)」を「郵送」又は「持参」によって提出をして行います。
なお、「相続届出書」や「必要書類」の内容は、各金融機関によって異なります。
③「公正証書遺言以外の遺言」に基づいて「被相続人の預貯金」を承継する場合、家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を済ませていないと、「被相続人の預貯金の承継手続」を行うことができません。
(注)2018年7月6日の民法改正により、法務局が「自筆証書遺言書」を保管できる制度が設けられることになりました。
なお、法務局に「自筆証書遺言書」を預けた場合、家庭裁判所での「検認」が不要になります。
ただし、この制度は、2020年7月に実現することになっております。
2、上場株式の承継手続
①「被相続人が保有する上場株式」を承継人の名義に変更させる場合、「相続人名義の口座」に移管する形で行われます。
従って、「相続人名義の口座」が必要になりますので、「相続人名義の口座」がない場合、新たに証券会社などで口座開設をする必要があります。
② 遺産分割の方法はいろいろありますが、その代表的なものの一つに「換価分割(財産を売却して現金を承継する方法)」という方法があります。
「被相続人が保有する上場株式」について「換価分割」をする場合、「相続人名義の口座(特別口座でない口座)に当該上場株式を移管した後で売却する。」という形で行わなければなりません。
従って、「相続人名義の口座」が必要になりますので、「相続人名義の口座」がない場合、新たに証券会社で口座開設をする必要があります。
③「被相続人が保有する上場株式の承継」を請求する場合、各証券会社などに「相続届出書(預貯金の承継を請求する書面)」や「必要書類(戸籍謄本等)」を「郵送」又は「持参」によって提出をして行います。
なお、「相続届出書」や「必要書類」の内容は、各証券会社などによって異なります。
④「公正証書遺言以外の遺言」に基づいて「被相続人の上場株式」を承継する場合、家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を済ませていないと、「被相続人の上場株式の承継手続」を行うことができません。
(注)2018年7月6日の民法改正により、法務局が「自筆証書遺言書」を保管できる制度が設けられることになりました。
なお、法務局に「自筆証書遺言書」を預けた場合、家庭裁判所での「検認」が不要になります。
ただし、この制度は、2020年7月に実現することになっております。
3、借金などの負債の承継手続
①「被相続人の借金などの負債」は、被相続人が死亡すると、「自動的」に、各相続人が「法定相続分」に応じて承継することになります。
従って、「被相続人の借金などの負債の承継」については、特段の事情のない限り、「特別な手続」をする必要はないといえます。
ただし、特段の事情のない限り、債権者(貸主など)に「被相続人の借金などの負債を承継したこと。」などを連絡すべきといえます。
②「遺言」や「遺産分割協議(相続人全員の合意)」によって、一部の相続人が「法定相続分」を超えて「被相続人の借金などの負債」を承継することになった場合、債権者(貸主など)の同意がない限り、債権者に対しては効力が生じません。
この場合、債権者は、各相続人に「法定相続分」に応じて借金の返済などを請求することができます。
ただし「遺言」や「遺産分割協議(相続人全員の合意)」によって決められた相続分を超えて借金の返済などを行った相続人は、他の相続人に対して、「その決められた相続分を超えた返済分」について求償請求ができます。
③「被相続人の借金などの負債」について自宅(土地や建物)などが担保になっている場合、被相続人が死亡した後も「約定どおりの返済」などが行われていないと、「担保権の実行」により「競売」がなされて、自宅(土地や建物)などが売却されてしまうことになります。
この点、自宅など(被相続人の借金の担保になっている土地や建物など)をそのまま承継したいのであれば、速やかに債権者(貸主など)に連絡をとって「約定どおりの返済」などを行う必要があります。
4、その他の財産の承継手続
(1)非上場株式の承継手続
① 法律上、会社から株券が発行されている場合、株式の譲渡は「株券の交付」によって効力が生じます。
この点、非上場株式の場合、株券が発行されていることがあります。
従って、「被相続人の非上場株式」を譲渡する場合、会社から株券が発行されているならば、「株券の交付」を行うことが必要になります。
② 法律上、株式を取得した者は、会社が保管している「株主名簿」に自らの氏名・住所が記載されていないと、会社に対して株主であることを主張できません。
この点、上場株式の場合は証券会社の口座をとおして保有していれば、特段の事情のない限り、会社に請求をしなくても、「株主名簿の名義書換」が行われます。
他方で、非上場株式の場合、取得した者が会社に対して請求をしないと「株主名簿の名義書換」は行われません。
従って、「被相続人の非上場株式」を承継した場合、会社に対して「株主名簿の名義書換」の請求を行うことが必要になります。
③ 法律上、株式会社は、定款によって「株式の譲渡には会社の承認を要すること。」を定めることができます。
通常、上場株式にはこのような定めはありませんが、非上場株式にはこのような定めがなされています。
従って、特定遺贈によって株式が承継された場合、「会社の承認」が必要となります。
なお、相続又は包括遺贈によって株式が承継された場合、「会社の承認」は必要ありません。
④ 法律上、株式会社は、定款によって「相続や包括遺贈によって株式を取得した者に対して株式を売り渡すことを請求できること。」を定めることができます。
通常、上場株式にはこのような定めはありませんが、非上場株式にはこのような定めがなされています。
従って、相続又は包括遺贈によって株式が承継された場合、会社から定款に基づいて「株式を売り渡すこと。」を請求されたならば、特段の事情のない限り、承継した者は応じなければなりません。
⑤「公正証書遺言以外の遺言」に基づいて「被相続人の非上場株式」を承継する場合、事前に家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を済ませておく必要があります。
(注)2018年7月6日の民法改正により、法務局が「自筆証書遺言書」を保管できる制度が設けられることになりました。
なお、法務局に「自筆証書遺言書」を預けた場合、家庭裁判所での「検認」が不要になります。
ただし、この制度は、2020年7月に実現することになっております。
(2)投資信託・国債・社債などの承継手続
① 一般的には、投資信託・国債・社債などは、銀行等の金融機関や証券会社で開設した口座をとおして保有しています。
従って、「被相続人が保有する投資信託・国債・社債などの承継手続」は、通常、金融機関や証券会社において行います。
②「被相続人が保有する投資信託・国債・社債などの承継手続」は、基本的には、「預貯金の承継手続」又は「上場株式の承継手続」と同様の形式で行うことになります。
(3)自動車の承継手続
①「被相続人が保有する自動車の承継手続(承継した者への名義変更手続)」は、管轄する運輸支局において行います。
②「自動車の名義変更手続」には「書庫証明書」が必要となりますが、被相続人と承継した者が同居の家族の場合には不要となることがあります。
③ 被相続人が保有していた自動車のローンが完済されているにもかかわらず、「車検証の所有者の名義」が「ローン会社(または、自動車販売会社)」のままになっていることがあります。
この場合、「ローン会社(または、自動車販売会社)」と「共同」して「名義変更手続」を行うことになります。
なお、「ローン会社(または、自動車販売会社)」は、通常、相続人が請求すれば、「名義変更手続を行うために必要な資料(委任状など)」を送付してくれます。
④ 被相続人の自動車のローンが残っている場合、被相続人が死亡した後も「約定どおりの返済」などが行われていないと、ローン会社から「担保権の実行」により自動車を引き渡すように請求されることがあります。
この点、自動車をそのまま承継したいのであれば、速やかにローン会社に連絡をとって「約定どおりの返済」などを行う必要があります。
⑤「公正証書遺言以外の遺言」に基づいて「被相続人の自動車」を承継する場合、家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を済ませていないと、「被相続人の自動車の名義変更手続」を行うことができません。
(注)2018年7月6日の民法改正により、法務局が「自筆証書遺言書」を保管できる制度が設けられることになりました。
なお、法務局に「自筆証書遺言書」を預けた場合、家庭裁判所での「検認」が不要になります。
ただし、この制度は、2020年7月に実現することになっております。
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