相続人が行方不明の場合
相続手続きの中には「限定承認」や「遺産分割協議」など相続人全員で行わなければならないものがあります。
これにより、一人でも相続人が「行方不明」な場合、相続手続きを進めることができないことがあります。
このような場合の典型的な法律上の対処方法としては、「不在者の財産管理人の選任」及び「失踪宣告」があります。
そこで、「不在者の財産管理人」及び「失踪宣告」に関して、具体的に説明します。
1、不在者の財産管理人とは?
(1)不在者の財産管理人とは?
① 不在者の財産管理人とは、不在者(従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者)が財産を管理する人を置いていなかった場合に家庭裁判所によって選任された「不在者に代わって不在者の財産を管理する人」をいいます。
② 不在者の利害関係人(相続人や貸主など)又は検察官は、「不在者の財産管理人」が選任されることを家庭裁判所に請求することができます。
③「不在者の財産管理人」は、不在者に代わって、不在者の財産を管理することになります。
ただし、「不在者の財産管理人」は、原則として「財産を保存する行為」及び「財産の性質を変えない範囲内における利用又は改良をする行為」だけしかすることができません。
「不在者の財産管理人」がこれらの行為以外をするためには、「家庭裁判所の許可」が必要となります。
従って、「不在者の財産管理人」が、不在者に代わって「相続放棄」や「限定承認」をしたり、「遺産分割協議」に参加するためには「家庭裁判所の許可」が必要となります。
④ 以上のとおり、一部の相続人が行方不明な場合、他の相続人は、「不在者(行方不明中の相続人)の財産管理人」が選任されることを家庭裁判所に請求することができます。
そして、他の相続人は「不在者(行方不明中の相続人)の財産管理人」と一緒になって「限定承認」や「遺産分割協議」などの相続手続きを進めることができます。
(2)不在者の財産管理人に関して注意すべきこと。
①「不在者の財産管理人」の主な職務は、不在者のために、財産を管理し、財産の目録を作り、家庭裁判所に報告をすることです。
最初の職務は、不在者の財産を調査して、「財産目録」や「管理報告書」を作成して、家庭裁判所に提出することです。
②「不在者の財産管理人」は、家庭裁判所から定期的に不在者の財産状況の報告を求められることがあります。
③「不在者の財産管理人」の職務は、特段の事情のない限り、「不在者が現れたとき」や「不在者が死亡したことが確認されたとき」等まで続くことになります。
つまり、「不在者の財産管理人」が選任されたことのきっかけとなった「当初の目的(例えば、遺産分割協議など)」が果たされたら、「不在者の財産管理人」の職務が終わりになるというわけではありません。
④「不在者の財産管理人」が不在者の財産を不正に費消した場合などには、解任されるだけでなく、損害賠償請求を受けるなど「民事上の責任」を問われたり、業務上横領などの罪で「刑事責任」を問われたりすることもあります。
⑤「不在者の財産管理人」になるために特に資格は必要ありません。
この点、司法書士や弁護士などの専門家が「不在者の財産管理人」に就任することが少なくありませんが、一般の人(不在者の親族など)が家庭裁判所から選任されることもあります。
(なお、「不在者の財産管理人」が選任されることを家庭裁判所に請求する際、請求する人は、「不在者の財産管理人になる候補者」を挙げながら請求することができます。)
しかし、以上に挙げたように「不在者の財産管理人」の責任は重たいものであり、一般の人が就任する場合、「相当な覚悟」をもって就任する必要があるといえます。
2、失踪宣告とは?
①「不在者の財産管理人」の主な職務は、不在者のために、財産を管理し、財産の目録を作り、家庭裁判所に報告をすることです。
最初の職務は、不在者の財産を調査して、「財産目録」や「管理報告書」を作成して、家庭裁判所に提出することです。
② 不在者の利害関係人(不在者の相続人になる人など)は、「失踪宣告」の審判が下されることを家庭裁判所に請求することができます。
③「失踪宣告」には、「普通失踪宣告」と「特別失踪宣告」があります。
「普通失踪宣告」とは、不在者の生死が7年間明らかでない場合に認められる「失踪宣告」です。
「特別失踪宣告」とは、戦争・船舶の沈没・震災などの死亡の原因となる危難に遭遇して、その危難が去った後に不在者の生死が1年間明らかでない場合に認められる「失踪宣告」です。
④「普通失踪宣告」の審判が確定した場合、法律上、「不在者の生死が不明になってから7年間が満了したとき」に不在者が死亡したものとみなされることになります。
「特別失踪宣告」の審判が確定した場合、法律上、「危難が去ったとき」に不在者が死亡したものとみなされることになります。
⑤「失踪宣告」の審判が確定して不在者が死亡したものとみなされると、不在者についての相続が開始されます。
つまり、不在者について「失踪宣告」の審判が下されると、不在者が相続人であった場合、「不在者の相続人たる地位(不在者が相続した権利・義務)」が「不在者の相続人(不在者の子供など)」に相続されることになります。
⑥ 以上のとおり、一部の相続人が行方不明な場合、他の相続人は、一定の条件の下で、一部の相続人が死亡したものとみなされる「失踪宣告」の審判が下されることを家庭裁判所に請求することができます。
そして、他の相続人は「不在者の相続人(不在者の子供など)」と一緒になって「限定承認」や「遺産分割協議」などの相続手続きを進めることができます。
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